南房総(房総半島南部)を舞台にした小説、エッセイ、紀行文などを紹介していきたいと思います。 また舞台が南房総でなくとも、作者が南房総出身者の作品もぜひご紹介したいと思います。
海の見える街の図書館で働く四人の男女の物語です。
読中読後、春の湿った潮風に吹かれるような心地よい気分になる良い小説でした。
さてこの「海の見える街」は南房総市界隈が舞台となっているようです。
具体的な地名はひとつもでてきませんが、推測してみます。
そうと思われる材料は○、残念な材料は△とします(笑)
○「市内には図書館が分館を入れて7館あり、」P30
→ 千葉県の「海が見える街」で市内に図書館が7館あるのは南房総市のみ。2006年(平成18年)に7つの町が合併してひとつの市になった関係で、対人口としては破格(?)の7館があるのです。
△「千葉県」であるとは小説のなかでは書かれていません
△主人公たちが働く図書館のように、市民センター内に児童館と図書館が入っている施設は南房総市にはありません。
○△「電車に乗って五駅先に行けば、駅前に若い子向けのショッピングセンターがあるよ」P45
→ 駅前にショッピングセンターがあるのはこの辺では「安房鴨川駅」のみ。
内房線で安房鴨川駅より五つ手前の駅は千歳駅ですが、そのもうひとつ手前は千倉駅です。千倉には南房総市図書館、つまり市の図書館の本館があります。ずばり舞台はこの図書館ではないかと思われます。ただし建物が平屋なため海は見えません(「働き始めた頃は職場から海が見えるなんてかっこいいなと思っていたが、」P8)
○この本の表紙に描かれている電車は、まさに「内房線」! ただ線路と防波堤と人や自転車が通れる通路がこのように位置しているところはないように思います。どなたか、ここと酷似しているところをご存じでしたら教えてください。
きれいな表紙だと思います。
・・・などなど想像をめぐらせて楽しんでみました。
さて、この本のことは週刊誌の書評で知りました。そこに「館山が舞台」とありましたので興味を持ちました。けれども読んでみると舞台は館山ではなくて南房総市では!
・・・いずれにしても房総本ということで。
それにしてもこの小説、悲しみや苦しみも描かれているのに、根底になんとなく大らかさと健康さが感じされるのが南国「房総本」たるゆえん(勝手に!)。読中読後感がよく、お薦めの一冊となりました。
ネットのレビューでも何人か方が「松田君のその後が気になる」とおっしゃっていました。たしかに。
そこのところは読者の想像に委ねる、という計らいでしょうが、なんとなく「そんなに悪いようにはなんねえっぺよ」と思ってしまいます。
いったいに、この南房総界隈が舞台になると緊迫感のあるストーリー展開にはなりにくい気が。
西村京太郎さんや吉村達也さんが書いてくれないでしょうか。「愛と憎しみの内房線」とか「和田漁港殺人事件」とか。と思ったら、こんな作品があったようです。
以下、西村京太郎氏の著作
・内房線の猫たち 異説里見八犬伝 (講談社ノベルス)
・「内房線で出会った女 ―さざなみ7号」(短編集「急行アルプス殺人事件」角川書店の中の一編)
・房総の列車が停まった日 角川書店
・外房線60秒の罠 (徳間文庫)
・・・おみそれしました。いずれも未読です。楽しみが増えました。
増えよ、房総本!
おすすめ度 ☆☆☆☆
房総に行きたくなる度 ☆☆☆☆
(記:2015年12月16日)