南房総(房総半島南部)を舞台にした小説、エッセイ、紀行文などを紹介していきたいと思います。 また舞台が南房総でなくとも、作者が南房総出身者の作品もぜひご紹介したいと思います。

短編集「鉄道員(ぽっぽや)」はベストセラーにして、かつ直木賞を受賞した短編集です。収録された8編のうち、「鉄道員(ぽっぽや)」は映画化されてヒットしましたが、「ラブ・レター」も映画化され、テレビドラマも作られたそうです。

「ラブ・レター」は、主人公の吾郎が亡くなった妻をひきとりに行く話です。とはいっても、その妻は偽装結婚の相手で、顔を見たこともありません。妻は中国人でした。その妻は吾郎に手紙を残しており・・・というストーリーです。

浅田次郎の小説には「こんな、男にとって都合がいい女を書きやがって」と怒りたくなる女性が出てくることも多いのですが、ページをめくる手を休めることができないし、新刊がでればやはり飛びついてしまうのです。それくらい浅田次郎の小説はどれも面白い。この「ラブ・レター」の白蘭も、どちらかといえばそういった描かれ方をしていますが、ふと白蘭のような立場の女性が顔を見たこともない夫を愛する、ということはありそうな気もして私の胸はきゅんとするのでした。

白蘭が亡くなったのが千倉、という設定になっています。それで「房総本」です。

千倉の町そのものの描写は少なく、千倉駅にいたっては「女にとってこの暗い終着駅は、堕ちるところまで堕ちた地獄そのものにちがいない。」という言われよう。しかし、吾郎と新宿から千倉へ同行したサトシが語った「女たちを一日だけ海に連れていって泳がせた」エピソードが、対照的にまぶしく際立ち、なるほど映画やドラマにしてみたくなるだろうなあと思えます。

この「ラブ・レター」と同じようなモチーフで「見知らぬ妻へ」という作品があります。舞台がどこだったか覚えておらず、再読してみます。

また、「天国までの100マイル」は鴨川が舞台になっていますので、このコーナーでも近いうちに取り上げます。

今後もぜひぜひ房総を舞台にした小説を書いてほしいと願っています。

おすすめ度 ☆☆☆☆

房総に行きたくなる度 ☆☆(いいところなんですよ、千倉)

(記:2016年5月19日)